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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和34年(う)162号 判決 1959年10月29日

被告人 徳道正義

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴趣意第一点(法令適用の誤)について。

原判文に徴すれば、原判決は、(一)判示第一において、被告人は、佐々木正雄から同判示の趣意のもとに現金三万円の供与を受けた旨、(二)判示第二において、被告人は、米沢直之から同判示の趣意のもとに現金二万円の供与を受けた旨、それぞれ認定し、以上の各受供与額につき受供与罪が成立するとして、各公職選挙法第二百二十一条第一項第四号を適用したこと、所論のとおりである。所論は、「投票買収のため交付を受けた金員のうち、受交付者が更にその一部を他人に交付又は供与した場合には、その残額についてのみ受交付罪が成立し、他人に交付又は供与した分については、受交付罪が成立しない、と解すべきところ、本件金員は、当初から投票取まとめの費用及び報酬として、他の有権者、運動者に交付又は供与の目的のもとに、被告人に供与されたものであり、その一部をその趣旨に基いて、被告人が他に供与したものであるから、残額についてのみ受供与罪が成立するものなるに、原判決が、その全額について受供与罪の規定を適用したのは法令の適用を誤つたもので、判決に影響がある。」旨主張する。案ずるに、授受された金額のすべてが選挙に関する買収資金であることが明確な場合とか、或いは授受された金員の一部につき予め選挙人又は選挙運動者に対して可分的に供与又は交付すべき旨の指示のある場合に、これを受領した者において、受領の趣旨又は指示に従い他に交付又は供与したときには、前の金員受領の点は後の交付罪又は供与罪に吸収され、その残額部分についてのみ受交付罪又は受供与罪が成立するものと解すべく、この意味において所論前段は正当である。しかし原判決挙示の証拠によれば、被告人が佐々木正雄から受領の金三万円、米沢直之から受領の金二万円は、すべてが選挙人又は選挙運動者に供与又は交付すべき趣意のものではなく、又具体的に何人に如何なる額を供与又は交付すべきやについて何等の取り極めもなく、投票及び投票取まとめの選挙運動の依頼と、その報酬及び運動資金を含む一切の費用として一括し、不可分的に授受されたものであり、被告人が自己のため保有する額、第三者に対し供与又は饗応すべき額等はすべて、宇奈月町における有力者であり選挙に関する経験豊かな被告人の裁量に一任されていたものであることが認め得られるのであつて、このように第三者に対して供与すべき金員を含めて受領したときでも、その供与すべき金額並びに相手方を特定しないで、すべて受領者たる被告人の裁量に一任されているときは、その全額を被告人において供与を受け、その独自の裁量に基いて更に他に供与すれば足りるのであるから、その全額について公職選挙法第二百二十一条第一項第四号の受供与罪が成立しこれを更に他に供与したとしても、前の受領の点を後の供与罪に吸収されるとか受取つた額から控除すべきものではないと解するを相当とする。してみると原審が叙上の見解と同一見地に立つて判示第一、第二について、これを更に供与した罪とは独立して、受供与罪が成立すると認定したのは正当であつて、所論の如き法令の適用の誤は存しない。所論引用の判例は内容趣旨を異にする本件に適切ではないし、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 山田義盛 辻三雄 干場義秋)

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